社会教育委員会議は、学校教育以外で主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動に関し、教育長へ助言することを目的に設置されています。
以下に平成 30 年度神奈川の社会教育委員活動(県社教連会誌)寄稿文に加筆修正したものを掲載します。
わたしたちは、中井町ならではの社会教育に向けて旅するキャラバンです。
平成27年(2015年)、当時、本町では10年来の懸案だった農村環境改善センターのリプレイスの動きがありました。しかしながら、わたしたち社会教育委員は、ソフト面の検討や人材育成が不十分ではという危機感を共有していました。そのため、同じ年に社会教育施設のあり方の調査研究を開始し、その手始めに、東京・武蔵野の文化複合施設や大学図書館を視察しました。
「同じ日本とは思えない」。知る、創造する、参画するが見事に組み込まれた施設の視察を終え、随行の担当職員が思わず口にした一言。わたしたちの心に火が着きました。
新たに設置した分科会では、図書館や文化ホールに関する先進事例や近隣市町の比較から、本町が県内で唯一図書電算化されていないこと、広域利用のおかげで近隣市町の図書館に依存していることを明確にしていきました。定例会では、委員である学校長から、本格的な発表経験が得られない児童・生徒の様子と先生方の努力が語られ、多数の委員からも、町民が文化的な豊かさを感じられない現状が指摘されました。
国会図書館の意識調査に基づくある研究では、地域への愛着が強く、地域活動に熱心なほど、図書館を利用するという、相関関係が見出されています。他市町に比べ定住意向が10ポイント近く低かったり、既存施設がごく限られた人の利用にとどまったりなど、本町のある種の悪循環も浮き彫りになってきました。
提言書は、施設の質もさることながら、町民自身の意識向上と、その取り組みの必要性が考えられるきっかけとなるよう、「生涯学習施設ワークブック」と名付け、翌28年(2016年)5月に教育長に提出されました。
施設は作る前からの準備こそ最重要であり、町民が文化と地域への愛着を高め、担い手となる人材発掘につなげる次のステップが必要でした。「里都まちブックピクニック」という新たな旅の始まりです。
「里都まち」とは、里山のやすらぎと都市的な暮らしの結節点にある本町の、新たなキーワード。「ブックピクニック」とは、本や読書体験を軸に、本町の自然、歴史・文化、食、体験、そして「ひと」といった身近な社会資源と出会い、暮らしの中に学びを育むイベントです。
年1回のペースで開催され、第1回は県下でも稀な湿生地である厳島湿生公園で、第3回(第2回は雨天のため中止)は860年以上の歴史を持つ五所八幡宮で開かれました。読書活動推進員やわたしたちが選んだ本の福袋が借りられたり、本格的なコーヒーやお菓子が味わえたり、ヨガや太極拳でリフレッシュしたりという、読書プログラムの合間に、尺八の演奏とともに「中井の昔ばなし」のリレー朗読、厳島では自然観察や彫刻にまつわるパフォーマンス、五所宮ではお宮のガイドツアーといった、開催地ならではの企画が入っています。平成30年(2018年)は、町政施行60年、中井村誕生110年にあたり、「なかい誕生110年を語る3冊の本」という特別企画を用意。関東大震災の記録や、70年代ダンプ公害と向き合った時代のルポ、生物多様性調査をまとめた小学校副読本を取り上げ、作者や関係者の証言から、本町の多様性を共有できました。
平成30年(2018年)、生涯学習施設の計画は財政状況に鑑み、延期がされました。しかし、ワークブックの投げかけた問題提起は、今後始まる農村環境改善センターの改装に生かされています。追記=令和元年(2019年)に図書電算化と学習スペースの設置がなされました。。
また、次回のブックピクニックは、中井中央公園内の里都まちカフェで開催。読書体験の要素を強め、より町民参加を促すよう模索を続けています。そしてここで得られた新たな人とのつながりが、現在のわたしたちの調査課題である「地域と学校のかかわり」に生かされていく予感があります。
調査と提言、その実践が、心ある方々や、文化に飢え乾いていた町民に波及している実感を得ながら、わたしたちの旅は続いています。